コツコツ古典

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金縹題名将手鑑 上之巻・1 義経と弁慶

小柄な義経に翻弄される弁慶。義経は日の丸の扇で弁慶を煽ってるようです。

国立国会図書館デジタルコレクションより

読み始め
ここに熊野の別当べん正(「義経記」では弁せう)が一子幼名を鬼若と呼べる者
成長して叡山にのぼり武蔵坊弁慶と名乗り 世に知られたる荒法師なりければ
遂に師の坊に背き叡山を退き それより所々をへめぐりしが
都へ出でて人の太刀を千振り取つて我が重宝にせんと 夜な夜な
太刀を取ることおびたたしく京中の噂となりて 一丈ばかりなる
天狗法師出でて人の太刀を取るぞとて恐れざるものなかりける

かくて弁慶は人の太刀を取る事およそ九百九十九腰に及びしが
いま一腰よき太刀を得んとて 今宵も又五条の橋に出でて
人や来たると待ちけるところに 白き直垂腹巻着て金(こがね)作りの
太刀を佩き 笛面白く吹きすさみて いとも豊かにきたるものあり
弁慶は声をかけ 汝が太刀を我に渡してゆけ さなくば決して
通さじと言えば かの者笛を留めて被衣(かつぎ)の内より
言ひけるは 此ほどの噂に違はず 人の太刀を取るは汝よな
左右なくは取らすまじ ほしくば寄つて取りてみよといへば
弁けん(弁慶?)大きにいかり長刀ふつて打つてかかれば
小太刀を抜いてあしらふ早業 その働き稲妻のごとく 橋桁を走る事
平地を行くにことならず 扇を片手に開き持ち 弁慶をうち招き
手を打ては笑ふ有様 人間業とは見へざりしかば
大力無双の弁慶なれども呆れ果てて立たりしが かなはじとや
思ひけん 長刀からりとうち棄てて地にひれ伏してその名を問へば
佐馬頭義朝の八男牛若丸と名乗り給へば 弁慶は驚きながら
おのれが名をも名乗りつつ 遂に臣下となり主従の契約をぞなしたりける

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漢字が少ないので文章が長いですが、濁点がふんだんに使われている分、「絵本故事談」より読みやすかったです。印刷のかすれや破損もほとんどなくて有難いことです。