コツコツ古典

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金縹題名将手鑑 上之巻・8 武蔵五郎貞世

将門関係の若武者、武蔵野五郎貞世。

国立国会図書館デジタルコレクションより

朱雀の院天慶二年 葛原親王の嫡孫 滝口小二郎相馬の将門 
幼年にして都に上り舎人の官人を務めゐたるに 
伯父たる常陸大掾国香 将門が幼年といひ 且上京の留守をはかり 
彼が所領を奪ひ取る 
此の事告る者あるにより 将門ひそかに京より下り 下野なる我が在所に来て 
老臣らと評議し 国香を殺さんと謀り 不意に国香が舘に押し寄せ 
大掾国香を亡ぼす
此の時国香の子息 上平太貞盛も上京して大内に奉仕してありけるが
将門が父国香を討ちしと聞きて 残念に思ひ さまざまに讒言して
将門が謀反の由をいつはりて上聞に達し 貞盛 達て(意味:強いて)討手を望むに
より実否をも正されず 下野の押領使 俵秀郷を添へて下野へ討手に遣はさる 
此由 将門聞きて大きに禁庭を恨み 我が謀反ならざるよしを
陳謝する間もあらざれば つひに朝敵の色をあらはす 老臣公連は
これを諫めかねて切腹せしかど 短慮一徹の将門なおとどまらず 下野の
猿島郡に内裏を建てて自ら天子と唱へ 平親王将門と名乗る 
しかるに朝敵の罪 天これを憎み秀郷の矢先にかかつて速やかに滅びたり

ここに将門が一族 武蔵権守興世が一子 五郎貞世といふ若者 
将門討たれしと聞きて 討死と覚悟をきはめ 馬にまたがり馳出だす 

時に貞盛は将門が良き郎党を生け捕らんと猿島の内裏を取り囲むところに
武蔵五郎貞世と名乗つて大前髪を振り乱し 大身の槍をひねりつつ
騎馬雑兵のきらひなく 空へ突き上げ地に突き伏せ 鬼神の如く荒れに荒れて
大将貞盛を目がけ烈風の如く馳来るを 官軍ら駆け隔て支ゆるうち 
貞盛 からく身を逃れて一丁ばかり引退く 
貞世は心のままに決戦して はやこれまでと「ばせう」(馬上?)につつ立ち
槍投げ捨てて太刀を抜き首にあててもろ手をかけ 我とわが首を掻き落とし
討死せしこそめざましけれ

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