金縹題名将手鑑 上之巻・9 鳥海弥三郎と権五郎景政
後三年の役の一場面。右の人が鳥海弥三郎、左が源義家の家臣、鎌倉権五郎景政。
国立国会図書館デジタルコレクションより
源氏の始祖 六孫王経基の嫡流伊予守頼義公 奥州安倍頼時謀反せし時
その討手を蒙り給ひ 奥州へ下りつつ 智計をもつて頼時を亡し
奥州平均したる所に そののち三年を経て 山林に深く隠れゐたる頼時が子
安倍貞任といふもの またまた在国に旗を上ぐる由 都へ注進ありければ
頼義公 御嫡子八幡太郎義家へ 恩顧の郎党どもを相添へ陸奥の国へぞ遣はさる
かくて八幡太郎は奥州に下り まづ間者を入れて敵の動揺かつ軍勢の多少を
探り給ふに 思ひのほか大軍なりければ 義家すなはち氏神なる男山八幡宮を
祈念して神の助けを得てすみやかに攻め破らんとぞ謀り給ふ
されば源家を守り給ふ神の擁護やありつらん 戦へば勝ち 攻むれば取り
味方は十分に軍威を増し 敵は次第に勇気衰ふ
ここに鳥海の弥三郎とて奥羽に名高き弓勢の者 乱軍の内に馬乗り出だし
大将を射て落とさんと 十三束に三伏せにて 満月の如くに弓引しぼり
きつて放さんとしたる横合いより 大将義家の股肱の臣 相模の国の住人
権五郎景政といふ者 鎧冑さはやかなるに母衣をかけ
太き馬にまたがり 片鎌の槍引提げ まつしくらに走り来て 鳥海が放つ矢を
かの槍にて叩き伏せ 槍取り直して一突きにせんと 辻風の如く追ひ来たる
こはかなはじと逃げながら 矢をつがへ後ろ様に景政目がけて射て放せば
景政馬に折伏すままに矢は空しく空を飛んで景政が母衣を射てける
鳥海は三の矢をつがへんとするに 早や景政が槍にて馬を突きしかば
弥三郎は馬上にたまらず落馬せしを生け捕りけるとぞ
又いふ景政は鳥海に眼を射られ その恨みをかへさんと三日三夜さ 追つかけて
つひに弥三郎を射てたふせしともいひつたふ
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弥三郎が矢を射ると、景政はサッと伏せたので矢は景政の母衣に刺さりました。
景政の頭上を通過する矢。