コツコツ古典

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金縹題名将手鑑 下之巻・13 俣野五郎と真田与市

組み合いながら崖を落ちていく武将二人。よく描けますねえ、こんな絵。

国立国会図書館デジタルコレクションより

高倉の院の治承四年八月十七日 右兵衛佐頼朝 旗を挙げて山木兼隆を夜討ちにし
同十九日 小早川の合戦に打ち負け 石橋山に敗軍して土肥の杉山に逃げ入り
古りたる木の洞に隠れ給ふ所に平家の侍 梶原景時 大庭景親 海老名源八ら
頼朝主従を追つかけ来たり 梶原景時 人より先に伏木のあたりへ来にけるを
頼朝篤く敬ひ給へば 景時たちかへつて 海老名源八らを欺き 頼朝を助け参らせぬ
しかるに又 大庭の一族 俣野五郎景久といふ大功の者 頼朝を生け捕らんとて
只一騎たづね来たるを 頼朝の旗下にて真田与市義貞といふ十八番の武芸に秀で
力万人に勝れし豪傑 俣野を目がけ声かくれば 俣野も大太刀抜きかざし
戦ふ事五十余合 面倒なりと引組んで又揉み合ふ事半時ばかり
双方劣らぬ大勇猛 いかがはしけん 組み合ひながら 赤土に足踏みすべらし
ころころころと米俵のまろぶが如く 真つ逆しまに深き谷間へ落ち重なり
上になり下になり 息をはかりに捩じ合ひしが 真田が力や勝りけん
俣野を下に組敷きて与市は短刀を持つて景久を討たんとするに
短刀の鞘抜けざれば しきりにいらつ そのひまに 景久下より跳ね返して 
からうじて真田を討つたりける

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ここぞという時に短刀の鞘が抜けなくなるというアクシデント、真田与市は悔しかったでしょうねえ・・・。